小児がんの病理
はじめに
われわれの体は、37兆個にもおよぶ細胞から構成されていますが、これは1個の受精卵から細胞分裂という現象によって細胞が増えた(増殖した)結果です。
1個の細胞から37兆個の細胞に増える間に、それら細胞がそれぞれ様々な形や働きを持つようになり、集まってわれわれの体を構成する器官(臓器)(腎臓、肝臓、心臓など)ができあがります。増えた細胞が様々な形や働きを持つようになることを「分化」と呼んでいます。これら細胞の分化は遺伝子の働きによって成り立ちます。
小児がんとは新生児期から思春期(15歳まで)の間に発生するがんと定義されています。最近では思春期から若年成人、つまり15歳から30歳代までに発生するがんをまとめてAYA世代のがんと呼ぶことがあります。AYAとはAdolescent and Young Adultの略です。
小児がんの殆どは細胞分化の過程でそれぞれの器官で発生します。1個の受精卵から個体に成長する過程には実に多くのステップがあります。その中には成長に従って、いらなくなる細胞も出てきます。いらなくなる細胞は遺伝子の働きで排除されます。いらなくなった細胞が生き残ってしまうと、正常な器官の発達が阻害されます。
小児がんの多くはそのような不要になった細胞が生き残り、体のどこかに潜み、それに遺伝子の異常が加わって発生するのではないかと考えられています。すなわち、細胞分化の過程で何らかの遺伝子の異常が生じ、がんが発生すると考えられていますが、未だわかっていないことが少なくありません。
何れにせよ、こどもがお母さんのお腹の中にいる間に、既にがんが発生しかけている場合が多いのです。もちろん、小児のがんでも成人のがんのように、環境因子によって遺伝子に傷がついてがん細胞へ変換するものもあります。
小児がんと一口に言っても、多くの種類があります。
大きく分けて血液がん(白血病やリンパ腫など)と固形がん(脳腫瘍および腎臓や肝臓などの器官または筋肉、骨、軟部組織などに発生するがん)があります。
これらのがんは成人に発生するがんと共通した特徴を示すものもありますが、多くは小児に特徴的な病態を示します。一番大きな違いは成人のがんは環境因子がその発生に極めて強く関連するのに対して、小児がんは殆ど環境因子の関与がみられないことです。
新生児期、乳児期、幼児期、学童期、思春期のように成長と発達の著しい時期に極めて多種類のがんが発生します。特に新生児期から幼児ないし学童期前半にかけては、小児がんの特徴を最もよく表している胎児性腫瘍として一括される固形がんが発生します。神経芽腫、腎芽腫、胚細胞腫瘍、肝芽腫、網膜芽腫、横紋筋肉腫などがそれに相当します。
小児がんはこどもの病死の原因で常に上位にありますが最近の10年程の間にその治癒率は大きく改善しました。それは小児がんの発生要因がかなり明らかになってきたこと、がんの性格によって、適正な治療が行われるようになったからです。しかしなお、難治性のがんも多くあります。これらについては、さらに詳細な研究が進められています
では、小児がんについて具体的に話をしましょう。
- 日本では小児がんはおよそ年間2400人ぐらいの発生があるといわれています
- 成人のがんは大腸癌、肺癌、胃癌、乳癌などはそれぞれ年間数万人がかります。その点から言うと小児がんは稀ながん(稀少がん)です
- 日本では小児がん登録がまだ整備されていないので年間どのぐらい発生して、どのくらい治癒し、どのくらい亡くなるのかはっきりした実数は把握されていません。従って、がんが治癒したこどもたちが、その後どのような社会生活を送り、その際どんな問題があるのか?まだ充分にわかっていません。病気が治っても、その影響が長く続くことが少なくありません。例えば、5歳で小児がんが治ったとしても20年後でも未だ25歳です。小児期にがんに罹り、治療をうけると何らかの後遺症が残ってしまう可能性があります。その後遺症がその患児が人生(その後の社会生活)を送るに当たりどのような影響を与え、それらに対してどのようなフォローが必要なのか?この問題の解決は極めて重要ですが、未だフォローの仕組みが充分確立していないので手探りの状態です。一刻も早い解決が必要です(CureSearch 参照)。
- 小児期でも年令に応じて様々な種類の小児がんが発生します(図1)
図1
① 白血病や脳腫瘍は小児期の全般にわたって発生しますが、その病型を詳しく調べると乳幼児に発生するものとそれ以降のものは病態や治療に対する反応が異なります。乳幼児期に発生するものの中には治療抵抗性で予後がよくないものがあります。
② 固形腫瘍では乳幼児期と思春期前後に発生する腫瘍の種類はやや異なっています。同じ腫瘍、例えば横紋筋肉腫や胚細胞腫瘍では低年齢で発生するものと年長児に発生する腫瘍では病型(腫瘍の組織亜型)が異なります。また、発生する部位や組織像(病理組織学的分類による)により予後が違います。一般に同じ腫瘍でも年齢が低い時期に発生するがんは高年齢で発生するものに比べて予後が良いです。
③ 思春期前後では体の成長が著しいので、骨、軟部組織、内分泌臓器(特に甲状腺や副腎皮質)および生殖器から発生するがんの頻度が高いです。
小児がんの詳しい話は小児がんの病理 総論および各論をご覧下さい。
(参考)
がんとは?
一般的に言われている「がん」という言葉は誤解されたり、誤って使われていることが多いのでここで明確にしておきたいと思います。
「がん」とは悪性腫瘍(悪性新生物)を指します。
因みに、悪性腫瘍とは発生した場所で
① 周りの正常組織の中へ伸びて、発育し(浸潤とよぶ)、
② 発生した臓器・組織から離れた場所に移って増殖(転移と呼ぶ)するできものを言います。
一般的に「がん」と呼ばれているものには2種類あります。
① 癌腫(一般的には癌とよばれる、カルシノーマ・carcinoma)
体や臓器(消化管、膀胱、皮膚など)の表面を覆う細胞(上皮細胞)、粘液や消化液(膵、肝など)およびその他の分泌物、ホルモンを出す細胞(腺細胞)、肺、腎などから発生する悪性腫瘍を癌腫とよびます。
例えば胃癌、大腸癌、膀胱癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、甲状腺癌、肝細胞癌、腎癌、肺癌など
② 肉腫(サルコーマ・sarcoma)
骨、軟骨、筋肉、結合組織、血管など体を支持したり、上皮細胞や腺細胞を栄養・支持する役目をもつ細胞から発生する悪性腫瘍を肉腫とよびます。
例えば骨肉腫、軟骨肉腫、血管肉腫、滑膜肉腫など
こどもには肉腫に近いがんが発生します
解りやすくイラストで示します(図2)
図2

小児がんは体の深い場所から発生する肉腫に似たがんが多いのです。


