病気の形
代謝病
1.代謝病とは
細胞が何らかの原因で傷害を受けると病的に変化します。一番極端なのは細胞が死んでしまう壊死(えし)です。こうなると細胞は元に戻れません(非可逆的変化という)。一方、細胞が死なない程度に傷害を受けると変性、萎縮、肥大という変化を示します。これらの変化は傷害の原因が取り除かれると元に戻ります(可逆的変化)。
細胞は細胞外から得た原料を取り込んで、それを自ら代謝して活動するためのエネルギーを獲得します。そして、エネルギーを使ってそれぞれが特徴的な機能を発揮します。しかし、その代謝の過程が不適切に進むと細胞は傷害を受けます。このようにして生じる細胞傷害を「変性」と呼びます。すなわち、細胞変性というのは代謝の障害(代謝異常)によって細胞内で処理できなかった物質が細胞内外に溜まってしまい、機能障害が生じることを意味します。細胞の集合体であるわれわれは、エネルギーの基を「外界」から摂り、それを体内で代謝して得なければなりません。その過程で生じる障害が代謝異常で、代謝異常が全身または広範囲の臓器におきた病気を「代謝病」と呼びます。図1に細胞変性の種類と代謝病の関連を示しました。
図1 細胞変性と代謝病
代謝病の多くは日常生活を送っていく中で、気がつかない内に罹ってしまっていることが多いのです。すなわち、食習慣、運動習慣、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症や進行に関与する「生活習慣病」と呼ばれる病気の多くが「代謝病」です。主なものは糖代謝異常である糖尿病、脂質代謝異常によっておきる肥満、動脈硬化症。タンパク変性である高尿酸血症による痛風などです。これらは生活するために不可欠な栄養素を偏った食習慣、運動不足、ストレスなどによって不適切に摂ってしまうことで発症します。
(1)三大栄養素の消化・吸収
代謝病を理解するため、先ずわれわれが食事からどのような機序で栄養素を取り入れているかを見ていきましょう。
三大栄養素は小腸で消化・吸収されます(図2)。
図2 三大栄養素が消化・吸収される小腸の構造の特徴
小腸で吸収された栄養素の多くは血中には入り直接エネルギーの素になるか肝臓で蓄えられます(図3)。
図3 タンパク質、炭水化物、脂肪の消化・吸収、貯蔵
(2)エネルギー代謝
エネルギー源として最も効率良いのは炭水化物から得られるグルコースです。グルコースは酸素環境の下で細胞内のミトコンドリア内に直接取り込まれ、クエン酸回路に入りATPというエネルギー源となります。ATP(Adenosine triphosphate)がより小さな分子ADP(Adenosine diphosphate)に分解されることで4kcal/gのエネルギ−を生みます。グルコースは食物中の炭水化物が唾液および膵液中のαアミラーゼという消化酵素で分解されることによって得られます。エネルギーとして使った余りはグリコーゲン(糖原)という形で肝臓、筋肉および脂肪組織に蓄えられます。脂肪もβ酸化によりクエン酸回路に入りATPになります。脂肪からはエネルギー量として9kca/g得られ、グルコースのエネルギー量より勝りますがβ酸化という経路を介するので、早くエネルギーを欲しいときにはグルコースの方が優れています。以上のエネルギー代謝を簡単にまとめたのが図4です。
図4 糖、脂肪によるエネルギー代謝
① グルコースは最も効率の良いエネルギー源です
先述したように、グルコースは極めて効率の良いエネルギー源です(図5)。スポーツで高いパーフォーマンスが欲しい時には、グルコースの元になる炭水化物を食べる方が効果的です。また、脳はエネルギーとしてグルコースしか消費しません。従って、勉強などをして脳が疲れたと思ったら消化の良い炭水化物を食べると快復が早いです。しかし、脳の発達には脂肪が必要です。神経細胞は脂肪を多く含んでいます。人類の脳が大きくなったのはわれわれの祖先が樹上生活から草原に出て、獣の肉を食べるようになってからだと言われています。細胞はグルコース細胞膜にある糖輸送担体(GLUT)を介して取り込まれます。
図5 グルコースはエネルギーとして効率よく働く
2.正常の糖代謝
(1)膵臓の構造と機能
血液中には一定の割合でグルコース(血糖)が含まれ、それがエネルギー源となりますが、その量を調整しているのが、膵臓にある世界で一番小さな島、膵島(ランゲルハンス島)のβ細胞とα細胞です。因みに、膵臓には内分泌腺である膵島のほか、消化酵素を出す外分泌腺があります(図6)。
図6 膵臓の構造(イラスト)。
図7は膵臓と膵島のミクロです。ミクロで観ると膵臓の殆どは消化酵素を出す腺房で占められていますが、その中に時々ポツンと島のように存在しているのが膵島です(図7上段)。膵島にあるβ細胞とα細胞は免疫染色によって染め分けることができます(図7下段)。
図7 膵島のミクロ インスリンを分泌するβ細胞とグルカゴンを分泌するα細胞
免疫染色で茶色に染まっている細胞がインスリン、グルカゴンを分泌する細胞です。(下段)
(2) 血糖の調整
血液中のグルコース濃度のことを血糖値といいます。血糖値の調整は膵島から分泌されるインスリンとグルカゴンとによっておこなわれます(図8)。
血糖値を一定に保つことを耐糖能ともいいます。言い換えると、耐糖能とは血糖 値を正常に保つためのグルコースの処理能力を指します。耐糖能はインスリンとグルカゴンの調整による機能です。インスリンは血中ブドウ糖の細胞への取り込みを助け、細胞にエネルギーを補給するとともに、血糖値を下げるという役割があります。そのインスリンの効きが悪くなり血糖値が上がってしまうことをインスリン抵抗性といいます。
図8 血糖の調整
3.糖代謝の異常 ー糖尿病―
糖尿病とはインスリンの分泌量が減少したり、充分な量が分泌されていても働きが悪いために起こる慢性的に高血糖を示す病気です。血液中にグルコースが出過ぎるため尿に糖が出てしまうので糖尿病と言います。
(1) 糖尿病の病型
糖尿病には2種類あります。図9に糖尿病の病型とその内容をまとめました。
① 1型糖尿病
膵島に炎症などが起きて壊れてしまいインスリンの分泌が生じないタイプです 。
炎症の原因はよく解っていませんが、一番多いのは免疫作用の異常(自己免疫疾患)によるものです。インスリンを常に補充しなくては生存できないためインスリン依存型糖尿病とも言います。若い人に多いタイプです。
② 2型糖尿病
インスリンが充分に機能しないことによって起きるタイプです。日本人の糖尿病の大部分がこのタイプです。食べ過ぎや運動不足などの生活習慣や加齢が関与します 。インスリン非依存型の病像を示します。 インスリンの作用は主に骨格筋・脂肪・肝臓で糖を吸収し血糖を下げますが肥満、特に内臓に過剰に脂肪が溜まるとインスリンは分泌されるが、血糖低下機能が悪くなります(インスリン抵抗性)。2型糖尿病の原因は不明ですが、親が家族内での発症も多く、体質の遺伝が関連しているという説があります。
図9 糖尿病の病型
(2)血糖値とHbA1c
糖尿病は血液中のグルコースの値(血糖値)を測ることによって診断します。血糖値は食事の影響を受けやすく、食後に高くなります。そのため、糖尿病の診断の際には早朝空腹時に血糖値を測定します。正常値は空腹時で110mg/dl以下で、126mg/dl以上なら糖尿病型とよばれ、ブドウ糖負荷試験を行い、200mg/dlであると糖尿病が強く疑われます。別の日に随時血糖値が200mg/dl以上なら糖尿病と診断されます。また、血糖値とともにHbA1c(グリコヘモグロビン)(https://www.ncvc.go.jp/hospital/section/ld/endocrinology/hba1c/)も測定します。HbA1cとはブドウ糖と結びついたヘモグロビン(血色素)の値で、測定時から過去1~1.5ヶ月間の平均血糖値を反映します。従って、食事の影響を受けないため食前・食後を問わずいつでも検査ができます。糖尿病の病態や糖尿病の治療コントロールの適正化には欠かせない検査です。HbA1cが6.5%以上で糖負荷試験、随時血糖値が基準値を超えていると糖尿病と診断されます(図10)。糖尿病の診断の詳細は(https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/030/010/01.html#01)を参照下さい。
図10 糖尿病の検査(血糖値とHb1Ac)
(4)糖尿病の膵臓(ミクロ)
糖尿病が進行すると膵島は完全に破壊されます(図11)
図11 糖尿病患者の膵島
右下が糖尿病患者の膵島で、左上の正常な膵島に比べ細胞が消失し無構造の物質で置き換わっています。
(5)糖尿病の合併症
糖尿病に罹ると全身に深刻な合併症が起きます(図12)。先ず、全身の血管系に異常が起こり眼底の出血、さらに四肢の動脈の閉塞による組織の壊死(えし)が生じ、進行すると上肢や下肢を切断しなくてはならなくなります。
また、腎臓にも病変が起こり糖尿病性腎症になって腎不全に陥ります。
図12 糖尿病の合併症
合併症で最も多いのは網膜の異常です(図13)。
図13 糖尿病性網膜症
さらに、糖尿病性腎症になり腎不全に陥ります(図14)
図14 糖尿性腎症(ミクロ)
高血糖状態が長く続き、処理できなくなった物質が腎臓の糸球体に溜まり、糸球体・尿細管が消失し、線維組織に置き換わります。そうなると腎機能が低下しやがて腎不全に陥ります。
4. 正常の脂質(脂肪)代謝
正常の脂質代謝は図15に示しました。食物から得られた脂肪は十二指腸へ出る胆汁と混ざり合い分解しやすくなって(乳化)、空腸へ送られます。空腸・回腸では図14で示すように膵液の中のリパーゼで、脂肪酸、モノグリセリド。グリセリンに分解され、さらに小腸の上皮細胞内で中性脂肪(トリグリセリッド・TG)になります。TGはそのままエネルギー源となると同時に、肝臓から出るリポたんぱく質と結合し、血液内に入りカイロミクロンと呼ばれる脂肪球になります。因みに脂肪は水に溶けないのでアポタンパクと結合して、はじめて血液の中に溶け込みます。カイロミクロンは3種類あります。一番軽いのはVLDLで殆どがトリグリセリドから出来ています。次はLDLで、殆どがコレステロールからなります。悪玉コレステロールとも呼ばれていて、動脈の内皮細胞にあるレセプターと結合して動脈壁に沈着し、後に述べる動脈硬化の原因となります。一番重いのがHDLでリポタンパクからなります。HDLは肝臓で再利用され、細胞膜の基となるコレステロールやリン脂質の原料になります。善玉コレステロールとよばれています。
図15 正常の脂質代謝
5,脂質代謝異常症
脂肪の摂り過ぎなどで生体内で脂肪過剰状態になり、図16に示すような脂肪代謝異常症を惹き起こします。
図16 主な脂質代謝異常症
(1)肥満
必要以上のカロリーを摂ると、余った分が脂肪組織となります。それによって体重が標準以上になると肥満と診断されます。図17に肥満の基準を示しました。
図17 肥満の基準
単純性肥満が生活習慣病によって起きる肥満です。
肥満の人の肝臓は肝細胞に脂肪がたまり、脂肪変性という状態になります(図18)。脂肪変性を起こすと肝が腫大し肝機能が悪くなります。
図18 肝臓の脂肪変性
図上段右が肝細胞に脂肪が蓄積した状態です。左の正常肝細胞と見比べてください。肝細胞が穴だらけになっているのがわかります。その穴が脂肪に相当します。下段右は脂肪染色を施した像です。真上の上段右の穴の部分が赤茶色に染まっていて、脂肪だということがわかります。下段左は脂肪肝をスライスした肉眼所見です。脂肪が溜まって肝臓が黄色味を帯び、腫大しています。
(2)メタボリックシンドローム
肥満のタイプには2種類あります(図19)。肥満で特に注意が必要なのは内蔵型肥満です。外観からは太って見えないことがあり、気がつかないうちに「メタボリックシンドローム」になってしまうことがあるのです。
図19 肥満の種類とメタボリックシンドローム
なぜ、必要以上に肥ってはいけないのでしょう? 肥ると様々な病気の基になります。それが図19左に示すような脂質異常症を伴うメタボリックシンドロームに移行します。メタボリックシンドロームの基準をもう一度図20に掲げます。
図20 メタボリックシンドロームの基準
内蔵型肥満症を呈するメタボリックシンドロームは高脂血症を基に高血糖→糖尿病、動脈硬化→高血圧などの症状を示します。詳しくは国立保健医療科学院ホームページをご覧ください(←https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-01-001.html)。
すなわち、メタボリックシンドロームは高脂血症を呈する様々な生活習慣病の原因となる危険性があります。厚労省ではメこのようなメタボリックシンドロームを予防するための特定健診(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161103.html)を受けるよう奨めています。
☆肥満と糖尿病
肥満は糖尿病の重大な危険因子です。肥満が基になる糖尿病の成り立ちを図21で示します。
図21 肥満と糖尿病
炭水化物から得られたグルコースの中で、エネルギーとして直ぐに使わないものはインスリンの作用によりグリコーゲンとして肝、骨格筋に蓄積され、残りは脂肪となり脂肪組織に蓄えられます。一方、血中の脂肪はインスリンにより肝臓に蓄えられますが、処理仕切れないものは脂肪組織に溜まります。このようにして、炭水化物や脂肪から成る高カロリー食を続けることにより、肥満(内臓脂肪肥満型)となります。肥満になると前述したように慢性的に過剰なインスリンが必要です。しかも、インスリンが分泌されても血糖値が下がらないためインスリン抵抗性の状態になります。インスリン抵抗性の要因については不明な点も少なくありませんが脂肪細胞がインスリン抵抗性に関わる因子を出しているという説もあります。いずれにせよ、インスリン抵抗性が生じると耐糖能異常を来たし高血糖の持続が生じ、糖尿病を発症します。糖尿病になれば、多くの深刻な合併症を惹き起こします。
(3)動脈硬化症
高脂血症で血液中の脂肪が多くなると動脈壁に脂肪が沈着し、壁が厚くなり内腔の狭窄や動脈の弾性がなくなるなど動脈硬化症になります。動脈壁に沈着するのは主にLDLです。動脈硬化の経過は図22のイラストで示します。
図22 動脈硬化症の成り立ち
動脈硬化の始まりは血管表面を覆っている内皮細胞という扁平な細胞への傷で
す。血圧が高いとか、血流が変わることによって容易に傷がつきます。傷がついた場所に脂肪が多い血液が流れると、コレステロールが壁に滲みこんでアテロームを形成します。アテロームというのは粥腫のことで、脂肪が動脈壁に沈着するとマクロファージが多く集まり脂肪を貪食します。貪食した細胞が多くなると、これらの細胞が死に、動脈壁の内膜にどろどろの粥状の物質として残ります。肉眼的には黄色の斑として観ることができます。
大動脈アテローム硬化症の肉眼所見を図23、そのミクロの所見を図24に示します。
図23 大動脈アテロ−ム硬化症(大動脈縦切開、マクロ)
正常の大動脈と異なり、アテローム硬化症では大動脈内面に黄色状を呈するアテローム斑とともに、石灰化も認められ、大動脈壁は弾性を失っている。
大動脈アテローム硬化のミクロ所見では図24のように内膜へのアテローム沈着により大動脈壁の肥厚が認められます。
図24 大動脈アテローム硬化による内膜への脂肪沈着
アテローム硬化の生じた動脈を輪切りにすると血管の内腔が著しく狭くなっていることが分かります(図25)。
図25 動脈硬化症による動脈内腔の狭窄(動脈の輪切り)
図25と同じ動脈に脂肪染色を施すと、壁に脂肪が溜まって内腔が狭くなっているのがよく分かります(図26)。
図26 図25の脂肪染色 動脈壁に脂肪(赤茶色)が沈着している
動脈内膜に脂肪が沈着し、内腔が狭くなっています。このように動脈の内腔が狭くなると臓器の大きな範囲が壊死を起こす梗塞の原因となります。
心臓や脳のような臓器に梗塞が起きると致命的になります(図27)。
図27 動脈硬化性狭窄による心筋梗塞と脳梗塞
5.タンパク代謝異常 -痛風について-
タンパク質の代謝異常症としては痛風が問題です。痛風とはどんな病気なのでしょうか?図28に示しました。
図28 痛風とは
痛風とは関節や足の軟部組織に尿酸塩が溜まって、局部を刺激し風が吹いても痛むといわれたことからこの病名があります。では、尿酸とは何か?その実態はどんなものなのでしょうか?図29に示します。
図29 尿酸とは
尿酸は動物性タンパクの大きな部分を占める細胞の核の中にある核酸やエネルギーの元になるATPの代謝過程で生じるプリンから出来ます。普通の人は尿酸は腎臓で代謝し、尿として出すのですが、それが上手くいかないとこの針状の尿酸塩が関節など足に溜まるのです。この尿酸塩が軟部組織に溜まると図30のように腫れ、激しく痛むのです。
図30 足の痛風結節
左の第1趾が腫れて痛そうですね。
痛風になる原因はどんなものがあるのでしょうか?図31です。
図31 痛風の原因と食餌
先ず第一に体質的なものです。続いて食べ物、特にレバーや魚卵など美味いものが血液中の尿酸を増やすものが多いのは皮肉です。昔から痛風は美食家の病気だとにいわれている所以です。次にここでも肥満が問題になります。飲酒やストレスも原因となります。患者の分布をみると圧倒的に男性に多いことから分かります。痛風がひどくなると内臓、特に腎臓に尿酸塩が溜まり、腎臓の機能不全(腎不全)の原因となります(図32、33)
図32 腎臓の痛風結節マクロ
針状の尿酸塩の結晶が溜まっています。
5.黄疸
皮膚の色や眼球の結膜が黄色くなる病気、黄疸も代謝病です。胆汁を構成するビリルビンという色素が全身に沈着するのです。では、胆汁の中に含まれるビリルビンはどのようにして生成されるのでしょうか? 図34をご覧下さい。
図34 ビリルビンの生成
脂肪を乳化する役割のある胆汁は胆汁酸とビリルビンという胆汁色素が主成分です。ビリルビンは赤血球の壊れたヘム鉄から作られます。そして、それが血液中に入ると間接型ビリルビンとなり、肝臓でグルクロン酸と結合して直接(抱合)型ビリルビンとなり、胆汁の成分となります。余分なビリルビンは腸内または腎臓でウロビリノーゲンとなって排泄されます。その血液中のビリルビンが正常より多くなると黄疸という症状が出ます。
では、黄疸とはどんなものなのでしょうか? 図35をご覧下さい。
図35 黄疸とは
黄疸には三種類あります。① 溶血性黄疸 ② 肝細胞性黄疸 ③ 閉塞性黄疸です。
① 溶血性黄疸とは赤血球の破壊が異常に多く起こり。間接型ビリルビンが血液中に増える。これは血液型不適合輸血などで溶血が起きた場合です。また、胎児から新生児に移る時、胎児型ヘモグロビンから成人型ヘモグロビンに換わります。その時、胎児の時に流れていた赤血球が壊れ、成人のものに入れ替わる。その際に一時的に溶血性黄疸が強くなり、赤ん坊の肌が黄色くなります。これを新生児黄疸と呼んでいますが、生理的なものですぐ元に戻ります。赤ちゃんを持ったり、見ている人は気がついていますね。
② 肝細胞性黄疸 これは肝炎などで肝細胞が壊れ、そこにあった直接型ビリルビンが血液中に増えるものです。
③ 閉塞性黄疸 胆汁を十二指腸へ導く肝管や総胆管が癌や胆石によって塞がり胆汁が逆流し血液中に直接型ビリルビンが増える。
① の例として核黄疸を図37で示します。
図37 血液型不適合によって起きた核黄疸
血液中の間接ビリルビンの増大により、脳の大事な部分である基底核、レンズ核などにビリルビンが沈着し、黄色くなっている。このような場所にビリルビンが溜まると神経細胞が死に、脳性麻痺などの重篤な後遺症を遺す。ひどい時は死に至る。
中央の肝内胆管にがん細胞が詰まって、肝臓全体に著しく直接型ビリルビンが貯留している。