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がん

1.「がん」は日本人の死因のトップです

10数年前から日本人の死因のトップはがんで、毎年約35万人以上の方が亡くなっています(図1)。

図1 日本人の死因 (2022年厚労省統計)

図1 日本人の死因 (2022年厚労省統計)

がんに続く死因の2位は、心疾患で脳血管障害を含む循環器疾患全体では21%弱です。長寿の人が益々増えているので老衰や嚥下性肺炎で亡くなる方が15%に達しています。また、2022年は新型コロナウイエルス感染症が流行した年なので肺炎は5%弱になりました。アルツハイマー病による死亡は1.6%でした。

2.がんとは

がんは癌腫(胃、腸、肝臓、膀胱、前立腺、乳房など上皮性組織由来の悪性腫瘍)と肉腫(骨、軟骨、脂肪、筋肉など非上皮性組織由来の悪性腫瘍)を合わせたものです(図2)。がんの詳しい説明は一般的な「がん」が発生するメカニズムを参照して下さい。

図2 がんの種類

図2 がんの種類

 

3.どのような種類のがんに罹る人が多いのでしょう?

がん種別罹患数は年々変わってきています。生活習慣に伴い変化します。図3は2020年の男女別のがんの種類別罹患者数です。

図3 がん種類別罹患者数(公益財団法人 がん研究振興財団「がんの統計」2020より)

図3 がん種類別罹患者数(公益財団法人 がん研究振興財団「がんの統計」2020より)

罹患者数の多いのは男性では前立腺癌、胃癌、大腸癌、肺癌の順で、女性では乳癌、大腸癌、胃癌、肺癌の順です。それぞれの性に特有ながんである前立腺癌、乳癌がトップになっています。また、性別に拘わらず多いのは大腸癌、胃癌の消化器系のがんおよび肺癌です。肺癌に罹る人は女性でも増えています。

 

4.どのような種類のがんで亡くなるのでしょう?

がん種別死亡者数は図4で示しました。

図4 がん種類別死亡者数(公益財団法人 がん研究振興財団「がんの統計」2020より)

図4 がん種類別死亡者数(公益財団法人 がん研究振興財団「がんの統計」2020より)

がん種別死亡者数では男性では肺癌、胃癌、大腸癌、女性で大腸癌、肺癌、胃癌の順です。男女合わせると肺癌がトップです。早期に見つかる肺癌は完治が見込まれている上、進行がんでも新しい治療法が開発されて肺癌の予後はかってほど悪くはありませんが、女性に多い腺癌や進行の早い小細胞癌は相変わらず難治性のようです。さらに、難治性の膵癌を含め消化器系のがんで亡くなる方は男女とも多いようです。がんの免疫学的療法を含んだ集学的治療が進められていますが、難治性がんの撲滅は容易ではありません。一方、男女それぞれで罹患数の多い前立腺癌、乳癌では死亡者数は多くありません。これらのがんは検査などで早期に発見し易く、治療法も確立されているので根治が期待ができるのです。

 

5.がんは遺伝子の病気です

われわれの身体は1個の受精卵が細胞分裂を繰り返し、37兆個の細胞まで増えて個体になります。また、細胞には寿命があるので、寿命がきて死んでいく細胞は、新たに細胞分裂をして補われます。がんはその細胞分裂の際に起きた遺伝子(DNA)の傷で発症します。しかし、一回の傷でがんが生じるわけではありません。DNAには修復酵素があり、傷がついても殆どは修復され、元のDNAとなって正常の細胞に戻ります。傷がついた細胞が残ったとしても、それらはアポトーシス(枯死)によって消滅してしまうか、免疫細胞の一つであるキラーT細胞が働いて殺されてしまいます。それでも極めて少ない確率でしぶとく生き残った異常なDNAを持つ細胞が増殖を始めます。それが「がん」の始まりです。がんはそのような一個の異常な細胞から始まり、さらに増殖する過程で繰り返し遺伝子に傷がつき悪性化が進むのです。(図5)。

図5 がん細胞は突然変異により遺伝子の異常が生じ何段階も経てできあがる

図5 がん細胞は突然変異により遺伝子の異常が生じ何段階も経てできあがる

転移とはがん細胞が発生した場所から遠隔の臓器に移り、そこで新たながん病巣を作ることをいいます。

「一般的ながんが発生するメカニズム」

6.がんは発生母地に形も機能も良く似ています。

がんはわれわれの身体の一部から発生します。従って良性の腫瘍(ポリープ)では発生母細胞に近似しています。しかし、悪性化すると細胞の形が、不整になり(異型性を示す)、次第に発生母細胞の性格を失います。図6は大腸ポリープ②と大腸癌③の組織像を示しています。正常の大腸粘膜①とよく比較して見てください。ポリープ②では正常の大腸粘膜①と似ていますが、大腸癌③では細胞が極めて強い異型性を持ち、増殖も強くなるため核(紫色で染まっている)が密に見えるようになります(図6)。

図6 大腸正常粘膜、大腸ポリープ、大腸癌のミクロ

図6 大腸正常粘膜、大腸ポリープ、大腸癌のミクロ

7.がんの進展は多段階です

がんが悪性化(進展)は遺伝子異常の積み重ねによって進みます(多段階進展)。図7は大腸ポリープから大腸癌になる過程を例に、どのように遺伝子の異常が積み重なって悪性化していくのかを示しています。良性のポリープから転移をするような悪性のがんになるまで多くの遺伝子異常の積み重ねがあります。

図7 大腸癌の多段階進展

図7 大腸癌の多段階進展

 

8.初期のがんは低侵襲手術で、進行がんは広範囲切除や化学療法など集学的治療で治療します

がんが発生した場所で止まっている内に治療すれば、内視鏡で行う範囲の狭い低侵襲な手術で完全に治ります。図8は早期の大腸癌の内視鏡所見と大腸鏡によって切除されたがん組織を示しています。このように早期のがんは低侵襲な手術で治りますが、進行したがんは手術のほか化学療法や免疫療法などの組み合わせ(集学的治療)で治癒を目指します。

図8 早期大腸癌の大腸鏡(内視鏡)手術

図8 早期大腸癌の大腸鏡(内視鏡)手術

一方、図9,胃癌,図10,肺癌のような進行したがんは臓器の広範囲を切除します。

図9 進行した胃癌(マクロ) 胃幽門側に拡がっている

図9 進行した胃癌(マクロ) 胃幽門側に拡がっている

図10 進行した肺癌(マクロ) 

図10 進行した肺癌(マクロ) 

図10の例は進行した肺癌だったので、左上葉を完全に切除しました。切除後化学療法を行いました。5年以上を経過していますが、再発はありません。

 

9.C型肝炎ウイルスは肝硬変を経て肝細胞癌(肝癌)を発症する原因となります

輸血で感染するC型肝炎ウイルスによって生じるC型肝炎は慢性化し、やがて肝硬変に移行し、そして肝細胞癌になります(図11)。今でも根治が難しいがんです。しかし、C型肝炎ウイルスそのものは検査で検出できるようになっており、今後はC型肝炎ウイルスによって起きる肝細胞が無くなっていくでしょう。

図11 C型肝炎ウイルスによる広汎な肝硬変、一部に肝細胞癌が発生

図11 C型肝炎ウイルスによる広汎な肝硬変、一部に肝細胞癌が発生

 

10.どのような生活を送ればがんを防げるのでしょう

がんは生活習慣病の一つですが、どのような成果を送れば予防ができるのでしょう? 図12にその問いに対する答えを掲げます。この提言は国立がん研究センターの研究者が10年以上ある地域で疫学的調査を行い、科学的分析(末梢血管抵抗疫学的研究)によって導きだされたものです。

図12

図12

上の提言を見ると、がんの予防は日常生活で食習慣、嗜癖、運動習慣を適切に行うことが重要であることが指摘されています(図12)。また、最近ではヒトパピローマウイルス感染による子宮頚癌、咽頭癌の発症、B型肝炎ウイルスによる肝癌、さらにピロリ菌による胃癌の発症など、感染を契機とする発がんが少なくありません。このようながんの予防にはワクチンの接種が勧奨されています。

がんは1個の細胞から何年もかけて臨床的ながんに発育します。従って、若い時からより健康的な生活習慣をもつことが重要であると思われます。