私たちの身体の不思議私たちの身体の不思議

細胞の不思議 その1 細胞とは?

1.われわれの体は37兆個の細胞からできています。
勿論、最初は1個の受精卵から始まります。

図1 試験管内での受精→初期の卵割の模様


ヒトの場合、一個の卵子に3億個の精子が絡むが、受精に与るのは1個の精子のみ
精子が一個卵細胞の中に入ると(受精)、卵細胞の膜は別の精子を受け付けません

図2 受精卵は卵管を遡及



受精卵は細胞分裂を繰り返しつつ卵管内を遡及し子宮内膜に到達し、着床します。

2.受精卵が子宮内膜に着床すると細胞の増殖は胚として一挙に旺盛となります。
つまり、胚葉形成が始まるのです。このあたりは前回の「私たちが生まれるまで」でお話ししました。


図3 胚葉形成(再掲)



3.そして個体が完成します。これまでの成長の模様をスキームで示します(図4)

図4 受精卵から個体形成まで

 

 

このような個体形成に至る細胞増殖は細胞分裂で生じますが、これは調整された増殖で、細胞周期というシステムで進みます(図5)


図5 細胞周期

 

4.細胞について
ここで、改めてわれわれの体の最小単位である細胞について少し詳しく話しましょう。

図6 細胞、大きさの単位



体の最小単位は細胞です。従って、病気は細胞が一個または数個の単位で傷むことから始まります。一個一個の細胞のあらましを示したのが図6です。

① 細胞の種類・寿命

・60兆個の細胞は260種類ぐらいの細胞に仕分けられます。
  それぞれの細胞には寿命があり死んでいきます。自然に寿命が来て死んだ細胞はその数だけ増殖して補われます。
・それでは細胞の寿命はどれ位なのでしょう?一番短いのは1日で死に、そして入れ替わります。
  胃や腸の表面を覆っている上皮細胞と呼ばれている細胞です(図7,8)。


図7 小腸絨毛(H&E染色)



図8 小腸上皮細胞の拡大像



赤く染まっているのが細胞質、紫が核
われわれの体は60兆個の細胞から成り立っています。になるには細胞分裂によって増殖を繰り返します。
因みに、赤血球の寿命は120日・4ヶ月です。
寿命がヒトの一生と同じという細胞もあります。脳の神経細胞(図9)や心筋細胞です。
これらの細胞はヒトが生まれてくるときが一番多く、細胞分裂をしないのでそのままの数かそれより少ない数で一生を終わります。

図9 大脳神経細胞



突起を持った大きな細胞です。
なお、骨の細胞は数10年の寿命です。

③ 細胞の大きさ

細胞は「ミクロの世界」なので、大きさ(小ささ)の単位について復習しておきたいと思います。
図6をもう一度みて下さい。その表の下の方に長さの単位について説明してあります。
長さは1mが基本です。1mの1/1000が1mm、さらに1/1000がマイクロメーター(ミクロン・μm)です。
さらにその1/1000、つまり1/106がnm(ナノ・メーター)です。
因みに赤血球は7μm、先ほどの神経細胞(図9)は100μm以上あります。細胞によって大きさは様々です。

④ 細胞を観る

★観る方法
細胞を観察する方法に光学顕微鏡で観る方法と電子顕微鏡で観る方法があります。言うまでもなく、光学顕微鏡は普通の顕微鏡のことでレンズを使って光を屈折させ拡大します。一方、電子顕微鏡は真空度の高い筒の中に電子(光に相当)を通し、その途中で磁場を設けレンズの代わりにして像を大きくします。従って、光学顕微鏡の何1000倍もの倍率が得られます。しかし、色は付かず黒・白・灰色の世界です。

図10に肝臓の細胞(肝細胞)を光学顕微鏡と電子顕微鏡で観た画像を示しておきました。

図10 光学顕微鏡と電子顕微鏡でみた肝細胞

 

 

(光学顕微鏡で紫の小さい構造が核、赤いのが細胞質です・H&E染色)
蛙の卵が集まった感のある肝細胞を一個を電子顕微鏡で観ると(右下)、細胞質には色々な構造がみえます。

★細胞内構造
細胞内は図11のような複雑な構造になっています

図11 細胞内小器官(オルガネラ)

 

それぞれの構造は細胞内小器官(オルガネラ)と呼ばれています。その機能は以下のようなものです。

 

実際の細胞のオルガネラは図13のようにみえます。

★核について
細胞内の構造で最も重要なのは核です。核の中には遺伝情報が含まれていてそれぞれの細胞の増殖・分化、その機能は核の中のDNAの指令で決まります。
では、核の中の5.核について

① どこに遺伝情報があるのでしょう?

核の中にある染色体に遺伝情報が隠されています。もう一度細胞を電子顕微鏡でみてみましょう(図14)

図14 ヒト肝細胞の電子顕微鏡像

 

核の中の濃い部分、それを染色質と呼んでいます。これが細胞分裂期になると染色体という状態になります。

② 染色体

図15で示したように細胞分裂時にはっきりする染色体。それをほぐして・ほぐしていくとワトソン・クリックがみつけたDNAの二重らせんなります。

図15 染色体 (ニュートン誌より)

 

 

別なイラストで示します(図16)。

図16 染色体をほぐす

 

 

DANは長いので絡まないようにヒストンと呼ばれる糸巻きにしっかりと巻かれています。
そして2重らせん構造はA、T、G、Cの4種類の塩基からできています。それぞれの塩基の決まった相手・「といめん」と結合しています。すなわちA-T、G-Cという具合です。この長いDNAがゲノムというもので国際的な共同研究によってヒトのゲノム全てが解読されたと話題になりましたね。因みにこの長いゲノムの内、実際に遺伝子として読まれるのは意外に少なく、約25,000個であることが明らかになりました。このゲノムは母親と父親の両方から受け継ぎ、人の体を構成する全ての細胞に等しく存在しているのです。

③ DNAは蛋白に翻訳されて機能の担い手になる

このように受け継がれたDNAはタンパク質に翻訳されて実際に働き手となるのです。DNAがタンパク質に翻訳される有様をイラストで図17で示します。

図17 DNAからタンパク質へ

 

核の中でDNAがRNAに転写され、mRNA(メッセンジャーRNA)で輸送され、細胞質のリボゾームと呼ばれる細胞内小器官(図12参照)でタンパク質に翻訳(産生)されます。

④ 全ての細胞が同じゲノムを持っているのに何故細胞毎に機能(性格や働き)が違うのでしょう?

その鍵はDNAからRNAに転写されるときにあります。つまり細胞毎に必要なDANだけが転写されるのです。例えば肝細胞は肝細胞になるために必要なDNAだけが転写される。心筋細胞、神経細胞、膵臓のβ細胞などなど、全ての細胞はそれぞれ必要なDNAだけが転写されます。その転写も遺伝子が決めているのです(転写因子という)。

その転写因子が決める種々の細胞の性格については次回、細胞の不思議:その2でお話しします。