トピックス

ミツバチの危機

現在、われわれは冬でもイチゴを食べ、メロン、スイカまで食べることができますね。
また、旬の季節より遙かに早くつややかなサクランボ、リンゴなどが店頭にならびます。
このような美味しく、美しい果物を生産するのにミツバチが大いに働いていることを意識している方はどれぐらいおられるでしょうか?
気づく人はその道の専門家を除くとどれ位のおられるでしょう多くの農産物・果物、例えばニンジン、カボチャ、トマトなどの野菜から先の果物に加えて、アメリカ合衆国で大問題となったアーモンドなどはミツバチの授粉によって実を結んでいるのです。
ハウス栽培で果物を作るときはその中に何万匹ものミツバチを放し、授粉させています。
そのミツバチが大量にいなくなるという現象が5年あたりからアメリカ合衆国で始まり、やがてヨーロッパ各国でも深刻化し何と日本でもおきているというのです。
この現象は「蜂群崩壊症候群(colony collapse disorder, CCDと略)」とよばれ、農作物、特に果物の生産に深刻な影響を与えているというのです。

ミツバチの生態


一つの巣に30,000-50,000匹

ミツバチの社会(巣)は役割分担が非常にはっきりしていて、一匹の女王蜂と沢山の働き蜂、少数の雄蜂で構成されています。春になると、働き蜂によって、王台という女王蜂を育てるための特別な部屋がつくられます。女王蜂も働き蜂も♀なので、孵化したときは同じ幼虫ですが、王台で生まれた幼虫だけが働き蜂からローヤルゼリーを与えられ、女王蜂へと育ちます。
女王蜂の産卵能力は1日に1000~2000個です。産卵のために生まれてきたようなものなので、その他の機能は同じ♀である働き蜂よりも採取する肢が短いなど、退化しています。

寿命も働き蜂が1ヶ月余りなのに対して女王蜂の中には6年ほど生き延びるものもいます。
一方の雄の蜂は働き蜂のすることには一切関わらず、春の交尾シーズンになると1つの巣で数百匹にもなり、女王蜂を見つけると、♂たちは1匹の処女王に向けて、死に物狂いで戦います。女王蜂はこのとき続けて数回の交尾をします。
♂は交尾によって命が奪われたり、交尾に与らないものは厄介者として外に出されてしまいます。ハチの世界では一つの巣が一つの個体に相当していると考えられます。
ヒトは37兆個の細胞(120種類)がそれぞれの機能を発揮して一人の人として成り立っています。ミツバチの場合、この個体に相当するのが巣で、そこの一匹一匹のハチが細胞であると理解することができます。

ポリネーション

ポリネーション(花粉媒介)は受粉に欠かすことの出来ない自然界の中でのミツバチの大事な働きの一つです。実際のポリネーションの様子はこちら

このようにミツバチがシベの周りを上手に一周しないと形のよいイチゴが生産できないのです。
因みに、最近ミツバチの行動に異常が起きて、いびつな行動をとるため変形したイチゴしか収穫できず、大きな損害が出ています。これも大問題なのです。

最初にアメリカで問題が指摘されたのは3年ほど前、アーモンド農園でのことです。アメリカ合衆国カリフォルニア州では2000年代に入り、アーモンド産業が地中海沿岸諸国の生産量を遥かに超える世界の8割以上の(10億ポンド以上の規模、今の価値で換算すると?)の生産量を誇るように発展してきました。まさに「アーモンドの奇跡」なのです。


アーモンドの花とミツバチ

それが2005年ぐらいからその生産が落ち、その原因がミツバチのCCD(蜂群崩壊症候群)だと判ったのです。1箱に5万匹以上いるはずの巣箱から蜂が突然いなくなる現象。養蜂家たちは蜂蜜がとれなくて困る、しかしこれだけでは問題は限定的。重大なのはミツバチの授粉がなくなるため、アーモンドなどの農作物の収穫が大幅に減少したことです。


蜜蓋の中に蓄えられる完熟蜜

彼の地では何エーカーもの広大な土地で果実を栽培する。その収穫にはミツバチによる授粉が必須なのです。人工的な授粉など不可能! 因みにアーモンドを含めてミツバチの授粉により農作物の生産は年間150億ドル(約1兆4800億円)という。アーモンド(昨年の収穫高は総額22億ドルに相当)は、他作物と比較して特にミツバチへの依存度が高く、金額にして130万ドル相当のミツバチを必要とする。今はミツバチ不足でその3倍に高騰!

では、何故ミツバチが立ち去ったのか(実は死骸が見つかるわけではなく立ち去ったとしかいえないのです)? この原因はいまだに判明していません。農薬、ダニ、温暖化、中には携帯電話から発する電波などという珍説もあるそうです。
先ほど、述べたように蜂は女王蜂を中心に1個体のように振る舞う。
すなわち、個体が忽然として消えるということです、まさに神隠し、某国が関与した拉致?

この現象はカナダやヨーロッパ各国にも拡がりました。
どうも、その背景に養蜂業の問題も絡んでいるらしいのです。
農産物の収穫に欠くことのできないミツバチを手っ取り早く殖やす方法、それはおとなしく、よく働き、飼いやすい蜂を選ぶこと。それに選ばれたのがセイヨウミツバチなのです。

ミツバチにより優秀な品種が得られる農作物はカボチャ、かんきつ類、イチゴ、サクランボ、メロン、ナシ、スイカ、アーモンド、ラズベリーなどなど、実際には農作物の1/3という見解もあります。

本来、9種類(多数の亜種)のミツバチがいて、それぞれコロニーを作っていた(居る)。しかし、人の都合でその一種が家畜化され、酷使された。そして次第に種々の環境に対して抵抗性を失っていき、疲弊して消えていったということは容易に想像がつきます。
つまり、人間の都合で生態系を変えてしまったことが大きな原因ではないでしょうか?
われわれは生きるため食物を食べなくてはならない。その食物は自然が作るはず。しかし、いつの間にかヒトは自然の中に生きているのだということを忘れて、われわれもその一員であるはずの生態系を壊してしまった。その報いの象徴ではないでしょうか?
この問題は果物を含む農作物に限らずヒトが生きるために自然とどう付き合うべきか?への厳しい問題提起だと思うのです。

因みにわが国でもセイヨウミツバチを大々的に使っていて、大きな影響が出はじめていることは報道の通りです。日本には固有のニホンミツバチという優秀なミツバチがいるのですが、、
さすがにアメリカでは農務省がいち早くその調査と対策に乗り出すとともに、基礎研究も進んでいてミツバチの今まで知られていなかった特性が判明したと。そして、その対策が一定の成果を上げつつあるとの報もあります。
わが国はというと、やはり現場では早くから気がついていたのですが、例によって対策は後手後手で、調査をはじめるという農水相の談話が出たのがつい先日、4月3日です。ミツバチの巣箱の盗難が激増中・・とか