小児がんの病理

はじめに

われわれの体は、37兆個にもおよぶ細胞から構成されていますが、これは1個の受精卵から細胞分裂という現象によって細胞が増えた結果です。

37兆個の細胞に増える間に、われわれの体を構成する器官(腎臓、肝臓、心臓など)ができあがります。増えた細胞が器官に仕分けられる機序を「分化」とよんでいます。

つまり、われわれの体は細胞の「増殖」と「分化」という現象によって作り上げられていくのです。
小児期に発生するがんの多くは、このように体が作り上げられている途中で発生します

小児がんと一口に言っても、多くの種類があります。
大きく分けて血液系のがん(白血病)、脳腫瘍および腎臓や肝臓などの臓器または筋肉、骨、軟部組織に発生するがんがあります(固形がん)。

新生児期、乳児期、幼児期、学童期、思春期のように成長と発達の著しいこの時期には、極めて多種類のがんが発生します。

成人に発生するがんと共通した特徴のものもありますが、多くは小児に特徴的な病態を示します。
新生児期から幼児ないし学童期前半にかけては、小児がんの特徴を最もよく表している胎児性腫瘍として一括される固形がんが発生します。
神経芽腫、腎芽腫、肝芽腫、網膜芽腫、胚細胞腫瘍、横紋筋肉腫などがそれに相当します。

最近の研究によって、これらのがんは遺伝子の異常によって発生することが、わかってきました。
1個の受精卵から個体に成長する過程には実に多くのステップがあります。その中には成長に従って、いらなくなる細胞も出てきます。いらなくなった細胞が生き残ってしまうと、正常な発達が阻害されます。

小児がんはそのような不用になった細胞が生き残り、体のどこかに潜み、それに遺伝子の異常が加わって発生するのではないかと考えられています。
すなわちこどもがお母さんのお腹の中にいる間に、既にがんが発生しかけているのです。また、成人のがんのように生まれてきてから、細胞が増える際に遺伝子に傷がついてがん細胞へ変換ものもあります。

このように小児がんでも色々な時期に色々な原因でがんになるのです。

最近の10年程の間に小児がんの治癒率は大きく改善しました。それは小児がんの発生要因がかなり明らかになってきたこと、がんの性格によって、適正な治療が行われるようになったからです。

しかしなお、難治性のがんも多くあります。これらについては、さらに詳細な研究が進められています

では、小児がんについて具体的に話をしましょう。

小児がんはこどもの病死の原因で常に上位にあります

① 小児がんは正式に登録されていないので、その実態は明らかではありません。
およそ年間2400人ぐらいの発生があるといわれています。
② 成人のがんは大腸癌、肺癌、胃癌、乳癌などはそれぞれ年間数万人がかります。その点から言うと小児がんは稀ながん(稀少がん)です
③ 日本では年間どのぐらい発生して、どのくらい治り、どのくらい亡くなるのかハッキリした実数は把握されていません(小児がん登録が存在しない)。

従って、治療成績がどのくらいで、がんが治ったこどもたちがどのような社会生活を送り、その際どんな問題があるのか?
実は明らかに(情報開示)できないのです。
これは大きな問題です。
5歳で小児がんが治ったこどもは20年後でも25歳なのです。
おとなのがんは例えば60歳で治ったとして、20年後はほぼ寿命なのです。

このように小児がんの登録は治療成績の改善、その子どものQOLの改善に絶対必要です!

年令に応じて様々な種類の小児がんが発生します

1.白血病や脳腫瘍は小児期の全般にわたって発生しますが、その病型を詳しく調べると乳幼児に発生するものとそれ以降のものは異なります。
また、治療に対する反応も違います。乳幼児期に発生するものの中には治療抵抗性で予後がよくないものがあります

2.固形腫瘍では乳幼児期と思春期前後に発生する腫瘍の種類はやや異なっています。同じ腫瘍、例えば横紋筋肉腫や胚細胞腫瘍では低年齢で発生するものと年長児に発生する腫瘍では病型(腫瘍の組織亜型)が異なります。また、発生する部位や組織像(病理組織学的分類による)により予後が違います。

3.思春期前後では体の成長が著しいので、骨、軟部組織、内分泌臓器(特に甲状腺や副腎皮質)および生殖器から発生するがんの頻度が高いです。

がんとは?
一般的に言われている「がん」という言葉は誤解されていたり、誤って使われていることが多いのでここで明確にしておきたいと思います

「がん」とは悪性腫瘍(悪性新生物)を指します。
因みに、悪性腫瘍とは発生した場所で
① 周りの正常組織の中へ伸びて、発育し(浸潤とよぶ)、
② 発生した臓器・組織から離れた場所に移って増殖(転移と呼ぶ)するできものを言います。

一般的に「がん」と呼ばれているものには2種類あります。
① 癌腫(一般的には癌とよばれる、カルシノーマ・carcinoma)
体や臓器(消化管、膀胱、皮膚など)の表面を覆う細胞(上皮細胞)、粘液や消化液(膵、肝など)およびその他の分泌物、ホルモンを出す細胞(腺細胞)、肺、腎などから発生する悪性腫瘍を癌腫とよびます。
例えば胃癌、大腸癌、膀胱癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、甲状腺癌、肝細胞癌、腎癌、肺癌など

② 肉腫(サルコーマ・sarcoma)
骨、軟骨、筋肉、結合組織、血管など体を支持したり、上皮細胞や腺細胞を栄養・支持する役目をもつ細胞から発生する悪性腫瘍を肉腫とよびます。
例えば骨肉腫、軟骨肉腫、血管肉腫、滑膜肉腫など

こどもには肉腫に近いがんが発生します

解りやすくイラストで示します

小児がんは体の深い場所から発生する肉腫に似たがんが多いのです。
但し、肉腫とはよびません。