私たちの身体の不思議

尿を作るということ(1) 泌尿器系について

健康な身体をつくり、それを元気に動かすために毎日食事をとり、それを消化吸収して身体の隅々まで血液で送ります。そして、血液の中から必要なものを取りだして、それを使って身体の各部署(臓器・組織・細胞)が新陳代謝を行います。新陳代謝を行った後は要らなくなったものを血液の中に戻して、外に出します。その一連の作業をするのが腎臓をはじめとする泌尿器系というシステムです。今回は泌尿器系がどのようにして身体の中の要らなくなってものを尿として体外に出すかお話をしましょう。

1.泌尿器系とは

図1 泌尿器系の臓器

図1は泌尿器系とよばれる臓器の概観です。
中心は腎臓で、そこで作られた尿は尿管という細い管を通って膀胱にいきます。膀胱からさらに尿道につながり外に排泄されるのです。
膀胱までは男女ほぼ同じ構造ですが、尿道は女性男性でやや違います。女性は尿道が短いので、外から雑菌などが入りやすく膀胱炎の原因となります。一方、男性はペニスの中を通るので、距離があります。

図2 腎臓

尿の生成に中心的な機能を果たすのが腎臓です(図2)腎臓は背中の腰骨の左右に一個ずつあります。大きなは縦10cm横5cm厚さ3cmほどです。形は空豆に似ています。英語ではそら豆のことを腎臓の形をしたまめ・Kidney beansと呼びます。腎臓の真ん中に腎門部といわれる動・静脈と尿管の出入り口があります。 腎臓は片方の重さが約120〜30g程度で、赤い色をしています。中を割って見ると中央に腎盂(じんう)という腎臓で出来た尿が流れ込むところがあります。腎臓の表面に近い場所を皮質、内側を髄質といいます。

2.尿はどうやってできる −腎臓の構造と機能−

では、腎臓で尿がどのように出来るのかお話ししましょう。
身体の新陳代謝の結果、要らなくなったものは血液の中に出されると先に述べましたが、そのような血液の中に入った不要物を腎臓で濾し出しまう。それが腎臓の役目です。そのためには腎臓に全身の血液が集まらなくてはなりません。腎臓に流れる血液は実に1分間に1.4リットルです。これは心臓から出る血液の内の約1/4にあたります。一日では1400リットル以上です。驚くべき量ですね?これだけ腎臓に血液が流れないとわれわれは生きていけないのです。

① 尿は先ず糸球体で作られる

図3 腎臓の構造(イラスト)

腎臓の構造をイラストで示してものが図3です。尿の生成はこの構造ときわめて強く関連しています。尿が最初に濾し出されるのは糸球体と呼ばれている小さな球状の構造からです。糸球体は腎動脈から細かく分かれた動脈(輸入動脈)の末端である毛細血管から出来ています。つまり、糸球体とは長い毛細血管が小さく折りたたまれて出来た構造なのです。糸球体は近位尿細管という細い管の先端で囲まれています。それをボーマン嚢、糸球体とボーマン嚢の間の小さな隙間をボーマン腔といいます。糸球体から出た毛細血管は輸出動脈となり、再び毛細血管となって今度は尿細管に巻き付きます。

図4 糸球体のミクロ

図4は糸球体のミクロです。三次元の世界を二次元で表現してるので分かりにくと思いますが、糸球体は毛細血管(赤血球が入っている)、それを囲む内皮細胞、腎上皮細胞、毛細血管を絡まないように保持しているメサンギウム細胞からなります。
では、どのように尿が最初に濾し出されるのか。腎動脈から入った血液は細かく分かれて、輸入動脈になり糸球体毛細血管になります。
その毛細血管内皮細胞の中、あるいは隙間から血管内の中を流れる血漿から水、アミノ酸、糖(グルコース)、Na, Clなどの電解質などがボーマン腔に濾し出されます。これを原尿といいます。

図5 ボーマン腔に濾し出させる原尿生成の原理

原尿がボーマン腔へ濾し出される原理は図5に示しました。
毛細血管に流れる血液には血圧があります。また、ボーマン腔と毛細血管との間には浸透圧の差があります。浸透圧とは内皮細胞膜を半透膜とした場合、血液にはアルブミンなどの蛋白によって膠質浸透圧が有り、ボーマン腔の濃度が低いので水はボーマン腔から血管内へ流れようとします。しかし、毛細血管圧の方が優勢なので、原尿はボーマン腔に濾し出されるわけです。
両方の腎臓にある200万個の糸球体からこのようなメカニズムで125ミリリットル/毎分、つまり、一日に約150〜180リットル以上の原尿が濾し出されるのです(糸球体濾過ともいう)。 体重60kgの人では身体に流れている血液は36リットルですから、そのうち液体成分である血漿は24リットルです。原尿がそのまま出てしまうと20分間で全ての血漿は外に出てしまうことになります。それではあっという間に脱水になってしまうので、次に述べる原尿の回収が始まるのです。

② 尿細管での再吸収

先に述べたように、糸球体からは不要なもの(尿素、アンモニアなど)のほか、大きな分子である蛋白質を除く、アミノ酸、糖、電解質(Na, K, Cl,  P・リン)など身体に必要なものまで、濾し出されてしまいます。これがそのまま体外に出てしまうと、たちまち脱水状態。そこで、いったん出されたものを今度は回収することになります。その回収は尿細管からその周囲に張り巡らされた毛細血管内へと行われます。どのようなものが回収されるのか?先ず水です。水は90%回収されます。さらに、アミノ酸、糖、Na、Kなどの電解質です。そのうち水の回収が最も大事です。従って何段階かでこの回収が行われます。先ず、糸球体の近い位置にある近位尿細管で再吸収が行われ、さらにヘンレ−の係蹄、遠位尿細管、そして最後に集合管で再吸収が行われます。水の再吸収は浸透圧の差によって受動的に血管内へ運ばれます。遠位尿細管では副腎から分泌されるアルドステロンというホルモンが重要な役割を演じます。アルドステロンは水やNa, Clの再吸収をすすめ、体液を増やし、結果として血圧を上げる役目もあります。さらに集合管では、体内の水不足を感知して脳の下垂体(後葉)に命令を下し、そこからバゾプレッシンというホルモン(抗利尿ホルモン・ADH)を出して、尿の生成を抑え、腎において最終的な水の再吸収を行います。集合管には受容体があり、バゾプレッシンが到達すると水チャンネル・アクアポリンという分子が現れて毛細血管側に水が動く(再吸収が行われる)のです。その他、アミノ酸、グルコースの再吸収は主に近位尿細管で行われます。Na, K, Cl, Pなどの電解質は尿細管全体で行われます。一方、蛋白質の分解で生じる尿素やアンモニア(NH3)、K、Hは尿内へ排泄されます。

そのような尿細管・集合管における再吸収の仕組みをまとめたのが図6です。

図6 腎の構造と尿の生成

分泌とは尿になることです。

③ その他の腎臓の機能

尿の生成には先に述べたように腎臓に流れる血液量の確保が必要です。そのために腎臓は血圧の調整を行います

図7 血圧の調整

血圧の調整については図7にまとめました。