病気の形

代謝病

細胞が何らかの原因で傷害を受けると細胞は様々に変化します
それを示したのが図1です。

一番極端なのは細胞が死んでしまう細胞壊死(さいぼうえし)です。こうなると細胞は元に戻りません(非可逆的変化という)。
細胞は死なないまでも、変性、萎縮、肥大という変化を示します(可逆的変化という)。その中で変性というのは細胞内で処理できなかった物質が細胞内に溜まることをいいます。溜まる物質によってたんぱく変性、糖質変性、脂肪変性などと呼びます。
ここでは、変性が全身におよび病気・代謝病について解説します。

1.三大栄養素はどのように代謝されるか?

三大栄養素である糖、脂肪、タンパク質は図1のように消化されます。


図1 三大栄養素の消化・吸収

2.糖尿病

われわれの身体の活力を生むエネルギー代謝を簡単にまとめたのが図2です。


図2 主なエネルギー代謝

エネルギー源として最も効率のよいのは糖・グルコースです。グルコースは細胞内のミトコンドリア内に取り込まれ、クエン酸回路に入りATPというエネルギーの元になります。グルコースは食べ物から炭水化物という形で摂られ、唾液および膵液中のαアミラーゼという消化酵素によって得られます。余分なものはグリコーゲン(糖原)という形で肝臓、筋肉に蓄えられます。さらに、脂肪に形を換え、全身の脂肪組織となります。
血液内には一定の割合でグルコースが含まれ、それがエネルギー源となりますが、それを調整しているのが、膵臓内の世界で一番小さな島にあるランゲルハンス島(ラ氏糖)のβ細胞とα細胞です。イラストで図3に示しました。膵臓には消化酵素を出す外分泌腺と血糖を調整する内分泌腺(ラ氏島)があります。


図3 膵臓の内分泌腺と外分泌腺

ラ氏島は図4で表すような組織です。


図4 膵ラ氏島

血液中のグルコースの値はラ氏島のβ細胞の出すインシュリンとα細胞が出すグルカゴンによって調整されています。図5にまとめました。


図5 血糖値はインシュリンとグルカゴンによって調整されている

<血糖値>

血糖値とは血液中のブドウ糖の濃度のことを言います。食物が摂取されて血糖値が上がると瞬時に膵臓からインスリンが分泌されます。このインスリンの分泌量が少なかったり、十分な量が分泌されていても働きが悪いと慢性的な高血糖の状態が続きます。これが糖尿病です。血糖は食事の影響を受けやすく、食後に高くなります。血糖は極端に高すぎたり低すぎたりすると昏睡を起こします。糖尿病の診断には空腹時あるいは食後2時間の血糖値を調べます。正常値は空腹時で110mg/dl以下です。随時に採血した血糖が200mg/dl以上なら糖尿病型とよばれ、ブドウ糖負荷試験をして調べます。別の日にもまた200mg/dl以上なら糖尿病と診断されます。

最近では、HbA1c(グリコヘモグロビン)(http://www.furano.ne.jp/utsumi/dm/hba1c.htm)を調べます。HbA1cとはブドウ糖と結びついたヘモグロビン(血色素)で、現時点より過去1~1.5ヶ月間の平均血糖値を反映しているのと食事の影響を受けないため食前・食後を問わずいつでも検査ができます。そのため、糖尿病の病態や糖尿病の治療コントロールの適正化には欠かせない検査です。の良否にはかかせない検査です。

1)糖尿病には2つのタイプがある

糖尿病には2つのタイプ(図6)があります。


図6 糖尿病のタイプ

ひどい糖尿病になると膵ラ氏島は完全に破壊されます(図7)。


図7 糖尿病の膵ラ氏島

2)糖尿病の合併症

糖尿病には全身のかなり深刻な合併症があります。図8に示しました。


図8 糖尿病の合併症

順に説明します。

① 糖尿病性網膜症(図9)
眼底の毛細管が破れ出血し、網膜剥離をおこし失明することがあります


図9 糖尿病性網膜症

② 糖尿病性腎症
血液中の糖の値が高いので、腎臓の糸球体の血管壁に糖が溜まる。そして、やがて腎臓の機能が低下し、腎不全(病毒症)となります(図10)。


図10 糖尿病性腎症

その他の合併症としては知覚障害や動脈硬化があります。動脈硬化に関しては次の章で述べます。

3.脂肪代謝異常

1)脂肪の代謝
脂肪代謝異常は脂質が血中に増え、全身に脂肪が溜まる(沈着する)ことによって起きます。先ず、脂肪がどのように代謝されるか図11で示します。


図11 脂肪の代謝

食物から摂られた脂肪は十二指腸へ出る胆汁と混ざり合い、分解しやすくなって(乳化と呼ぶ)、空腸へ送られます。空腸・回腸では図11で示すように膵液の中のリパーゼ(図4)で、脂肪酸、モノグリセリド。グリセリンに分解され、同じく小腸の上皮細胞内で中性脂肪(トリグリセリッド・TG)になります。TGはそのままエネルギー源となると同時に、肝臓から出るリポたんぱく質と結合し、血液内に入りカイロミクロンと呼ばれる脂肪球になります。因みに脂肪は水に溶けないのでリポタンパクと結合して、はじめて血液の中に溶け込むのです。カイロミクロンには3種類(遠沈して軽い順から3つの分画に分かれる)あります。一番軽いのはVLDLで殆どがトリグリセリドから出来ています。その次はLDLで殆どがコレステロール(Ch)からなります。悪玉コレステロールと呼ばれているのがこれです。次に述べる動脈硬化の原因となります。一番重いのがHDLでこれはリポタンパクからなります。HDLは肝臓で再利用され、細胞膜の原料となるコレステロールやリン脂質の元になります・善玉コレステロールとよばれています。
このような脂肪の摂り過ぎなど脂肪代謝が上手くいかなくなると図12の脂肪代謝異常のような代謝異常を惹き起こします。


図12 脂肪代謝異常

2)動脈硬化
血液中の脂肪成分が多くなると動脈壁に脂肪が沈着し、やがて壁が厚くなり内腔の狭窄や動脈の弾性がなくなり、動脈硬化という病気が起きます。その原因となるのが、主にLDLの沈着です。動脈硬化の成り立ちは図13、14で示しました。


図13 動脈硬化の成り立ち①

始まりは血管表面を覆っている内皮細胞という扁平な細胞の傷です。血圧が高いとか、血流が換わることによって容易に傷がつきます。傷がついては治り、また傷が付くという繰り返し。そこへ脂肪分が多い血液が流れると主にコレステロールが壁にしみ込む。


図14 動脈硬化の成り立ち②

アテロームというのは「粥」腫のことで、脂肪を喰ったマクロファージが多く集まるが、食べ過ぎて死に、そこがどろどろの粥状となることです。

このようにして出来た大動脈硬化(アテローム硬化)を図15で示します。


図15 大動脈のアテローム硬化
大動脈を縦に切ったマクロの写真です。

動脈に脂肪が溜まると壁が厚くなり内腔が狭くなります(図16)また、同時に繊維が増え壁の弾力が失われます。


図16 大動脈壁の肥厚

動脈を輪切りにすると図17の通り、内腔が著しく狭くなっています。脂肪染色で脂肪を染めると壁に脂肪がべったりとついている(図18)


図17 動脈の輪切り 壁が厚くなり内腔が狭くなっている

図18 図17と同じ場所の脂肪染色 赤い色が脂肪

このように、動脈の内腔が狭くなり、硬くなると梗塞や高血圧の原因となります(図19)


図19 動脈硬化によって起こる心筋梗塞や脳梗塞

3)肥満
身体に必要以上のカロリー(エネルギーの元)を摂ると、余った分脂肪となって全身に溜まります。それが基準以上になると肥満。ということになります(図20))。図21には肥満のタイプを示します。


図20 肥満とは、その基準

図21 肥満のタイプ

警戒すべきはリンゴ型肥満です。肥って見えないこともある。

4)メタボリックシンドローム
では、なぜ必要以上に肥ってはいけないのでしょうか?肥ると様々な症状や病気の基になります。いわゆる生活習慣病は勿論のこと関節痛や呼吸障害をも惹き起こします。生活習慣病ではメタボリックシンドロームというのが最近問題になっています。では、メタボリックシンドロームとは何のことでしょうか?多くのマスメディアなどがメタボリックシンドロームについて取り上げていますが、実は間違った情報が多いのです。ここで、正確なことを知っていただきたい。メタボリックシンドロームの定義は図22で表しました。


図22 メタボリックシンドロームの基準とは

内蔵型肥満症をベースとして、高血糖、高脂血症、高血圧などの症状があることです。厚労省のホームページも見てください。
すなわち、一番怖いのは糖尿病へ移行することなのです。そのために厚労省ではメタボリックシンドロームに関する特定健康診断を始めました。しかし、メタボリックシンドロームそのものの基準、本当に糖尿病予備軍なのかなどはこの、検診の集計ではじめて明らかになることであり、学問的にははっきりしないことが多いのです。
では、なぜ肥ると糖尿病予備軍になるのか?そのあたりを説明しましょう。

☆肥満と糖尿病(高血糖)

図23に肥満と高血糖の成り立ちを示しました。


図23 肥満と糖尿病(高血糖)との関連

① カロリーを過剰に摂ると、血糖値が上がり血液中のインシュリンの量が減少します。

② 余分なカロリーは脂肪へ変換され脂肪組織に置き換わります。脂肪組織はそれをグルコースに換え血糖値を上げようとする。そうなるとここでも血液中のインシュリン量が減ることになります。①②が相俟って血液中のインシュリン減少し、高血糖の持続が起きます。すなわち、インシュリンの消耗によって相対的に血液中のインシュリンが減少し、高血糖を招来→糖尿病になるということです。糖尿病になれば、前項で述べた通り多くの深刻な合併症を惹き起こすのです。

4.タンパク代謝異常 -痛風について-

タンパク質の代謝異常症としては痛風が問題です。痛風とはどんな病気なのでしょうか?図24に示しました。


図24 痛風とは

痛風とは関節や足の軟部組織に尿酸塩が溜まって、局部を刺激し風が吹いても痛むといわれたことからこの病名があります。では、尿酸とは何か?その実態はどんなものなのでしょうか?図25に示します。


図25 尿酸とは

尿酸は動物性タンパクの大きな部分を占める細胞の核の中にある核酸やエネルギーの元になるATPの代謝過程で生じるプリンから出来ます。普通の人は尿酸は腎臓で代謝し、尿として出すのですが、それが上手くいかないとこの針状の尿酸塩が関節など足に溜まるのです。この尿酸塩が軟部組織に溜まると図26のように腫れ、激しく痛むのです。


図26 足の痛風結節

左の第1趾が腫れて痛そうですね。

痛風になる原因はどんなものがあるのでしょうか?図27です。


図27 痛風の原因と食餌

先ず第一に体質的なものです。続いて食べ物、特にレバーや魚卵など美味いものが血液中の尿酸を増やすものが多いのは皮肉です。昔から痛風は美食家の病気だとにいわれている所以です。次にここでも肥満が問題になります。飲酒やストレスも原因となります。患者の分布をみると圧倒的に男性に多いことから分かります。痛風がひどくなると内臓、特に腎臓に尿酸塩が溜まり、腎臓の機能不全(腎不全)の原因となります(図28、29)


図28 腎臓の痛風結節マクロ

図29 腎臓の尿酸結節

針状の尿酸塩の結晶が溜まっています。

5.黄疸

皮膚の色や眼球の結膜が黄色くなる病気、黄疸も代謝病です。胆汁を構成するビリルビンという色素が全身に沈着するのです。では、胆汁の中に含まれるビリルビンはどのようにして生成されるのでしょうか? 図30をご覧下さい。


図30 ビリルビンの生成

脂肪を乳化する役割のある胆汁は胆汁酸とビリルビンという胆汁色素が主成分です。ビリルビンは赤血球の壊れたヘム鉄から作られます。そして、それが血液中に入ると間接型ビリルビンとなり、肝臓でグルクロン酸と結合して直接(抱合)型ビリルビンとなり、胆汁の成分となります。余分なビリルビンは腸内または腎臓でウロビリノーゲンとなって排泄されます。その血液中のビリルビンが正常より多くなると黄疸という症状が出ます。

では、黄疸とはどんなものなのでしょうか? 図31をご覧下さい。


図31 黄疸とは

図32 黄疸の種類と原因

黄疸には三種類あります。① 溶血性黄疸 ② 肝細胞性黄疸 ③ 閉塞性黄疸です。

① 溶血性黄疸とは赤血球の破壊が異常に多く起こり。間接型ビリルビンが血液中に増える。これは血液型不適合輸血などで溶血が起きた場合です。また、胎児から新生児に移る時、胎児型ヘモグロビンから成人型ヘモグロビンに換わります。その時、胎児の時に流れていた赤血球が壊れ、成人のものに入れ替わる。その際に一時的に溶血性黄疸が強くなり、赤ん坊の肌が黄色くなります。これを新生児黄疸と呼んでいますが、生理的なものですぐ元に戻ります。赤ちゃんを持ったり、見ている人は気がついていますね。

② 肝細胞性黄疸 これは肝炎などで肝細胞が壊れ、そこにあった直接型ビリルビンが血液中に増えるものです。

③ 閉塞性黄疸 胆汁を十二指腸へ導く肝管や総胆管が癌や胆石によって塞がり胆汁が逆流し血液中に直接型ビリルビンが増える。

① の例として核黄疸を図33で示します。


図33 血液型不適合によって起きた核黄疸

血液中の間接ビリルビンの増大により、脳の大事な部分である基底核、レンズ核などにビリルビンが沈着し、黄色くなっている。このような場所にビリルビンが溜まると神経細胞が死に、脳性麻痺などの重篤な後遺症を遺す。ひどい時は死に至る。


図34 肝細胞癌による閉塞性黄疸

中央の肝内胆管にがん細胞が詰まって、肝臓全体に著しく直接型ビリルビンが貯留している。