私たちの身体の不思議

消化器系(2) 人体の大がかりな化学工場・肝臓、膵臓を中心に

前の章では、食べ物を食べて、それらが消化・吸収される場である消化管(胃、小腸、大腸)についてお話ししました。この章では食べ物を消化する消化液の産生される場所、栄養分として吸収されたものがどのようにして身体の一部やエネルギ-として使われるのか、その場所とプロセスをお話ししようと思います。
みなさんは肝胆膵という言葉をご存知でしょうか? そうです、肝臓、胆嚢、膵臓のことですね。食べたものを自分にあった栄養分にし、それを必要なものに分解、合成をするのはこの肝胆膵が重要な役割を演じます。先に話した消化管は食べたものを消化する場で、実際に消化液を出したり、消化されたものを使ってエネルギーに換えたり、身体の構成成分にするのはここで話をする肝臓や膵臓なのです。

肝胆膵の位置関係はイラストで図1に示しました。

図1 肝胆膵の位置関係

肝臓で作られた胆汁は一旦胆嚢に溜められ、総胆管を介して十二指腸へ運ばれます。膵臓で産生された消化液・膵液は膵管を介して同じく十二指腸へ分泌されます。
膵管と総胆管は十二指腸の同じ所へ開口します。

図2 肝臓を巡る血管系係

1.消化は先ず口の中の唾液腺から始まります -最大の化学工場―

① 肝臓の構造

肝臓は成人で約1000~1300gで、ヒトの臓器では最も重量があります。右葉と左葉に分かれていますが、右葉の方が大きいのです。
肝臓の構造は図3のようになっています。

図3 肝臓の構造

肝臓は直径0.1cm程の小葉という構造の集まりでできています。一個の小葉には約50万個の肝細胞があります。小葉の中心には中心静脈があり、集まって肝静脈となり下大静脈へ流れ込みます。肝細胞は中心静脈を中心に放射状にならび、その間に類洞と呼ばれる毛細血管があります。肝小葉の周辺には門脈域と呼ばれる構造が認められ、門脈の枝(門脈枝)、胆管の枝(細胆管)、肝動脈枝が含まれています。

では、実際の肝臓のミクロを観てみましょう(図4)

図4 肝臓の小葉ミクロ

肝細胞と類洞の位置関係を詳しく観てみましょう(図5)

図5 肝細胞と類洞

ピンク色が肝細胞の細胞質、紫色が核です。類洞に流れてくる栄養分をすぐに取り込めるように両者が密着しています。

② 小腸から肝細胞へ運ばれる栄養分 -血液の流れ-

小腸で吸収された栄養分は血液の中に溶け込み、門脈を介して肝門脈域の門脈枝に運ばれます。門脈枝から類洞を通って中心静脈に注ぎ込む間に、肝細胞はその栄養分を取り込んで処理します(図3の下部および図5を参照)。門脈域の肝動脈枝からの動脈血も類洞へ流れますが、これは肝細胞が栄養分を取り込むなどの代謝活動をするための酸素を供給します。そして、その残りの要らなくなった血液が中心静脈へ運ばれるのです。従って、類洞というのは桿細胞の機能を支える重要な血管系なのです。
図6は肝臓を巡る血管系を示したものです。肝臓の機能を理解する上で、肝臓を巡る血管系は重要なのでよく見ておいてください。

図6 消化器系の血管系

③ 肝臓の機能とは

それでは栄養分の取り込みのほか、肝臓の機能にはどのようなものがあるのでしょうか?
図7、8、9に肝臓の機能を示します。

図7 肝臓の機能その1

肝臓の最も代表的な機能は上で示すように小腸で消化・吸収された栄養分の代謝です。

図8は胆汁の産生を示します。胆汁は脂肪を膵液の中のリパーゼで消化しやすくするために使われます。

図8 胆汁の産生過程

胆汁は要らなくなった赤血球が破壊されたもの(ビリルビン)などで作られます。

その他の肝臓の機能は図9で示してあります。

図9 その他の肝臓の機能

肝臓の重要な機能の一つに生体内でできた、または生体外からもたらされた有害物質の排除ないしは解毒があります。

☆アルコールの代謝

アルコールは胃で20%、小腸で80%が吸収され、門脈を通って肝臓に運ばれます。肝臓に入ると肝細胞で産生されるアルコール脱水素酵素(ADH)、ミクロゾームエタノール酸化酵素などで分解され、アセトアルデヒドになります。アセトアルデヒドはアルデヒド脱水素酵素により無害な酢酸となり、最終的に血液中で水と二酸化炭素になります。因みに、アセトアルデヒドは有害物質で悪酔いや二日酔の原因になりますし、発がん物質でもあります。そのような危険なものは肝臓でどんどん無害化しなければなりません。肝臓の機能が低下すると身体の中にアルデヒドが溜まることになります。ところで、アルコールの処理能力は成人で1時間あたり純アルコールで9~12mlといわれています。それを超すと急性アルコール中毒となり死に至ることがあります。

2.膵臓 -食物の消化を一手に引き受ける

膵臓は身体のほぼ中心部にあり、頭部は十二指腸に密着しています。そこから横に伸び、成人で20cmほどの大きさです。図10に、その位置を示しました。

図10 膵臓およびその周りの臓器

① 膵臓の構造
膵臓の中をイラストで示したのが図11です。

図11 膵臓の構造

膵臓の実質には全く異なる機能を担う2種類の細胞があります。1種類は腺房細胞で消化酵素を産生します。もう1種類はランゲルハンス島(ラ氏島、或いは膵島と呼ぶ)の細胞です。ラ氏島はいうまでもなく、血中のグルコースの量をコントロールする機能があります。

では、実際にミクロで観てみましょう。

図12 膵臓のミクロ1

細胞質の濃い細胞群の中に2カ所、少し色の薄いところがありますね。これがラ氏島(膵島)です。その他の部分は腺房といって消化酵素を作る細胞です。もう少し詳しく腺房細胞とラ氏島の細胞を観てみましょう(図13)

図13 腺房細胞とラ氏島

腺房細胞は細胞質が赤く、粒々(顆粒という)があるように見えます。この顆粒が消化酵素です。どのような消化酵素があるかは後でお話しをします。一方、ラ氏島の細胞は腺房細胞よりも小さく色も薄いですね。この中に血液中のグルコースの量(血糖値)を調整するβ細胞とα細胞があります。β細胞はインスリン、α細胞はグルカゴンを産生します。普通の染色(HE染色)ではどの細胞が何を産生しているか解りませんが、図12のした左のようにインスリンの免疫染色をするとインスリンを産生するβ細胞だけが染まってきます。詳しい染色の方法はここでは述べませんが、このように免疫反応を利用した染色法は細胞の機能を見分けるのに非常に有用な手段です。

② 膵臓の機能
先に述べたように膵臓には機能の違う腺房細胞とラ氏島の細胞という2種類の細胞があります。腺房細胞は消化液を産生します。タンパク質をアミノ酸に分解するトリプシン、キモトリプシン。炭水化物をグルコースなどの単糖に分解するアミラーゼ。脂肪を脂肪酸とグリセリンに分解するリパーゼです。これらの消化酵素は膵液の中に溶け込んで膵管を通って十二指腸乳頭(ファーター乳頭ともいう)に分泌されます。食べ物が小腸に入ると膵液と混ざって食物の中からそれぞれ栄養分を分解します。つまり、膵臓で作られた消化酵素は膵液の中に入って小腸でその機能を発揮します。
そのあたりを説明したのが図14です。

図14 小腸に入った消化酵素はこのように働いている

分解されたグルコースは直ちに血液中に放出され、全身を回ってエネルギー源になります。残ったものは肝臓でグリコーゲンとして、また全身諸処の脂肪組織に蓄えられます。グルコースは非常に不安定な物質なのでグリコーゲンないしは脂肪として貯められるわけです。そして、必要になったらグルコースに変換されて消費されるのです。血液の中のグルコース(血糖値)は常に監視されていて多すぎるとラ氏島のβ細胞が出すインスリンが働いて血糖値を下げます。すなわち、グルコースをグリコーゲンまたは脂肪に換えて肝臓や脂肪組織に貯めるのです。その調整が上手くいかないで血糖値が高い状態が持続するのが糖尿病という病気です。糖尿病については病気の形「糖尿病」を参照してください。
タンパク質は小腸でアミノ酸まで分解され、門脈を通って肝臓に運ばれ肝細胞がアルブミン、グロブリン、トランスフェリンなどの血清たんぱくを合成する材料になります。
また、脂肪は胆嚢に溜まった胆汁と混ざって消化されやすくされリパーゼの働きで脂肪酸とグリセリンに分解され肝臓に運ばれます。脂肪酸はβ酸化によってグルコースに変換されエネルギー源となります。また、これらを材料としてトリグリセリッドが合成されます。トリグリセリッドは水に溶けないので肝臓で作られるリポタンパクと結合して血中に入り全身の脂肪組織で貯められます。

このように肝臓と膵臓は人体の化学工場であり、
身体の構成やエネルギーの基になる物質を食物から取る極めて重要な臓器なのです。