私たちの身体の不思議

細胞の不思議 その2 細胞の性格、色々な細胞

1.細胞の性格

さて、われわれの体は37兆個。260種類の細胞から出来上がっていることはすでにお話ししました。
図1にまとめておきました。

図1

生物の中には人間のように多くの細胞から出来上がっていることものもありますが、たった一個の細胞から出来ているものもあります。前者を多細胞生物、後者を単細胞生物と呼びます(図2)。

図2 単細胞生物 (ニュートン誌より)

ミドリムシ、ゾウリムシなどは理科の時間に顕微鏡でみたことがあると思います。
その他、ケイ藻、ミカズキモも単細胞です。細菌の多くも単細胞で乳酸菌の他、病気の原因となる大腸菌やアメーバも単細胞です。

① 細胞の寿命

細胞にはそれぞれ寿命があり、死ぬとそれが刺激となって死んだ数だけよみがえります(細胞の再生とよぶ)。 それでは細胞の寿命というのはどれ位なのでしょう。図3をご覧ください。

図3 細胞の寿命

・一番、寿命の短い細胞は胃や腸の表面を覆っている消化管上皮細胞で、24時間で死にます。消化管上皮細胞はそれぐらい新陳代謝が激しいのです。
・因みに赤血球は約3ヶ月生きています。死ぬと赤血球にあるヘモグロビン(この細胞のである酸素の運搬に中心的な役割を演じている因子)が分解され、胆汁の基になっているビリルビンが作られます。胆汁は脂肪の消化に関連しますね。
・骨の細胞は10年ほどの寿命があります。しかし、骨折などの傷害が起きると極めて活発な再生がおきます。大概の骨では数週間で骨折が治るのでおわかりでしょう。
・生まれてくると二度と細胞分裂をしないといわれている細胞もあります。それは心筋と神経細胞です。心臓や脳に血液が行かなくなっておきる細胞が死ぬと心不全(心臓の機能が喪失)や脳にある神経細胞が死に(壊死・えしという)、心筋梗塞や脳梗塞で生命の危険を及ぼすことはご存知の通りです。しかし、最近の再生医学の研究から今まで生まれてくると二度と細胞分裂をしないと思われていた脳の神経細胞でもよみがえる力、すなわち細胞分裂して再生を果たす力を持つことが解ってきました。それについては改めて話をしたいと思います。

② 細胞の大きさ

次に細胞の大きさについて話しましょう。
これは細胞の種類によって様々ですが、図1で示すように全てはミクロの世界です。代表的な細胞の大きさを図4で示しました。

図4 細胞の大きさ

ヒトの細胞の大きさはおよそ10ミクロン(μm:0.01mm)前後です。例えば赤血球は7ミクロン、白血球はそれよりやや大きく10ミクロン前後です。中には大きな細胞もあります。図4の右端にある大脳皮質にある運動を司るBetz細胞は神経突起を含めなくても100ミクロン程度の大きさがあります。また、血小板の元になる骨髄の中の巨核球も大きな細胞です。

2.色々な細胞

前に述べたようにヒトには260種類に及ぶ細胞があります。ここでそれらの中で特徴ある細胞を挙げてみましょう。ミクロの写真は全てヘマトキシリン・エオジン染色(H&E染色)で紫が核、赤いところが細胞質(胞体)です。原則として、一個の細胞に一個の核があります

1)毛が生えている細胞

① 小腸の上皮細胞

小腸では食事で得た殆どの栄養素が吸収され、分解されます。そのために絨毛構造といってセンスを折りたたんだような構造になっています。下に掲げたような構造です。更に絨毛を構成する細胞一個一個は上のような毛が生えている。これは刷子縁とよばれる構造で絨毛とともに摂った食物からとことん栄養を吸収するため表面積を広げる役目をしているのです

小腸の絨毛構造

② 気管・気管支上皮細胞

上の小腸上皮細胞と同じように毛が生えていますが構造は全く違っていて、これは繊毛(せん毛)です。気管に入った空気の中で汚れた物質を外に出すため、この繊毛がそよいでいるのです。稲穂が風になびいている様を想像して下さい。気管・気管支の表面はこの細胞が覆っていますが、この繊毛が一斉に乱れることなく同じ方向にそよぐのです。

2)物を作る細胞

① 粘液を作る胃や腸の細胞

胃や腸には粘膜を保護したり食物を通りやすくするために粘液を作る(産生)細胞があります。細胞全体が粘液ではち切れそうです。

② 汗を作る汗腺の細胞

一個一個の細胞が汗を作り内側に分泌します。

③ ホルモンを作る細胞

脳下垂体などのホルモンを産生する細胞。赤く濃く染まっているのがホルモンです。

3)細胞の中が空に見える細胞

脂肪細胞

細胞の中(胞体とよぶ)が空っぽで何もないように見えます。これは標本を作る過程で中身が脂肪なので溶けてしまうからそう見えるだけです。

4)色が付いた細胞

① 皮膚の表皮の細胞

一番下の細胞の中が茶色い色をしていますね。これがメラニン色素とよばれているもので、皮膚の色に反映されます。つまり、黒人はこのメラニン色素が多く、われわれ日本人や中国、韓国人などの黄色人種もこの色素が多いのです。一方、白人はメラニン色素が少なく、紫外線を浴びると皮膚がんになりやすいのです。

② 網膜の細胞

網膜を作る細胞にも色素があります。

5)細胞に縞のある細胞

① 骨格筋

細胞の胞体が大きく、縞が見えます。この縞はアクチンおよびミオシンフィラメントといって筋肉の収縮に強く関連しています。自分の意思で動かせますが、持久力に欠けています。

② 心筋

骨格筋と同じような縞があります。しかし、骨格筋と違い自分の意思で動かしたり、止めたり出来ません。しかし、疲れ知らずで、死ぬまで働きます(収縮・弛緩を繰り返す)。そういう意味では消化管や子宮の壁、血管の壁にある平滑筋と似ています。

6)硬い細胞

① 骨細胞

いかにも硬そうで、核が骨質で埋まっているように見えます

② 軟骨細胞

骨より軟らかい感じがする細胞です。核の周りに明るいところがあるのが特徴です